この記事の著者・監修者
院長:戸梶 仁聡(とかじ ひろあき)
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
資格・所属学会
- 日本矯正歯科学会認定医
- 歯学博士
- 上智大学カウンセリング研究所認定カウンセラー
- NCC認定カウンセラー
- 日本矯正歯科学会
- 日本歯周病学会
- アメリカ歯周病学会
歯を失う原因のひとつに歯根破折があります。
これは非常にやっかいな疾患で、歯根破折をおこしてしまうと抜歯か破折部分を接着する一時的な対症療法、もしくは経過観察以外に治療方法がありません。
ゆえに歯根破折をいかに防ぐかということが我々歯科医にとっても大きな問題となっていました。
通常、歯根破折は生活歯よりも圧倒的に失活歯に多く、その比率は約10:1となっています。
その理由として、これまでの研究から2つのことが明らかになりました。
理由1
このことは生活歯よりも失活歯には強い咬合力の負荷がかかることを意味し、特に咬合力の強い男性や、歯ぎしり・くいしばりなどの咀嚼筋機能異常のある患者さんの場合に大きな問題となります。歯根破折の既往があり、歯ぎしり・くいしばりなどの咀嚼筋機能異常のある患者さんの場合はスプリントを夜間装着してもらう方が安全です。
理由2
失活歯の場合は歯冠が崩壊していることが多いため、コアと呼ばれる土台を入れることになりますが(図)これが歯根破折の原因になっていることがあげられます。
すなわち、強度の問題からコアは金属で作られることが多いのですが、歯質に比べて金属はきわめて硬いため咬合力が加わったときにコア材がくさびの役目を果たし、歯根の破折を引き起こすのです。
これを防止するために、金属にかわるコア材として開発されたのがグラスファイバーから作られたファイバーコアポストです。
ファイバーコアポストの弾性係数は、従来の金属製ポストに比べ象牙質に近似しており歯のたわみに応じて屈曲しながら応力を分散するため、歯への負担を大幅に軽減するものとなっています。(従来ポスト材でよく使われてきた金銀パラジウム合金は85〜95GPaで象牙質の約4倍)
このほかにもファイバーコアポストの利点としては、再度根管治療が必要になった場合でもメタルコアに比べてはるかに除去が容易であることがあげられます。このようなことから、現在私たちの歯科医院ではメタルコアの代わりにファイバーコアポストをコア材として使用しています。
健康なお口を維持するためには患者さんご自身によるプラークコントロールが欠かせないわけですが、そのためには私たち歯科医療者がお手入れのきちんと出来る補綴物を作ることが非常に大切です。
ですから、私たちは補綴物の寿命を左右する 一番重要な因子は適合(どれだけ削った歯にぴったり合った物がはいっているか)だと考えています。そのためには精度の高い技工(歯を作る作業)はもちろんですが、その前に精度の高い印象(型どり)が必要となります。
歯を作るには型を取って石膏模型を起こし、その上で作っていきますが実物では歯と歯茎は区別できても模型になるとすべて石膏になってしまうため、境目がわからなくなってしまいます。
そのため、憶測で作ることになってしまい最終的にできあがった補綴物は合わない物ができてしまいます。
そのような補綴物ではブラッシングしてもきれいにプラークを落とすことが出来ず、フロスもひっかかって出来ないため継ぎ目のところから虫歯が出来てしまいます。
Step1
私たちが型を取るときは、まずはじめに歯のまわりにある溝に細い糸を巻きます。次にもう少し太い糸を上から巻いてしばらく時間をおきます。すると歯茎が歯から離れた状態になります。この操作を圧排といいます。
Step2
型を取る直前に太い糸だけをはずします。
シリコンというより精度の高い印象材を用いて溝のなかまできっちりと型を取ります。
Step3
咬合器という装置に模型をとりつけて顎の動きを再現しながら、その動きに調和した形になるように歯を作っていきますので、作るのが1本の歯であってもお口全体の型をとります。
Step4
採れた型は顕微鏡で完全に取れているかチェックをします。
出血や気泡で採れていないときは再度糸を巻いて、歯肉を分離させ取り直しをします。
Step5
採れた型は顕微鏡で完全に取れているかチェックをします。
出血や気泡で採れていないときは再度糸を巻いて、歯肉を分離させ取り直しをします。
Step6
最後に今回作る歯の色を決めて終わりになります。
Step7
次回出来上がるまでは2~3週間ほどのお時間をいただきますが、その間はプラスチックの仮の歯を入れておきます。これは単に削った歯を守るだけでなく、歯の位置がずれたりしないように保つ役目も持っています。もしも仮歯が壊れたり、はずれてしまった時はそのままにしないですぐにご連絡ください。
Step1
印象から製作用の模型を2つおこします。
<模型1>ダイ模型
この上で歯を作る作業をしていきます。
<模型2>歯列模型
こちらは咬合器というあごの動きを再現できる器械に装着して、 かみ合わせの面を作るときに使用します。
Step2
印象から製作用の模型を2つおこします。
歯列模型上でワックスで最終的な歯の形を作ります。このときに咬合器であごの動きを再現させてみて、もしも動きを妨げるような干渉部分があればそれを取り除き、あごの動きに調和した状態になるように形態を修正します。
形が決まったらシリコンで型を取り、その形態を記録してその後セラミックを盛る厚み分だけワックスを削除し、コアとなる金属部分の形を作ります。
こうして出来たワックスパターンから埋没材を用いて鋳型を作り、そこに溶かした金属を流し込んでメタルフレームと呼ばれるもの作ります。
Step3
焼き上げ・適合し、完成です。
こうして作られたメタルフレームの上にポーセレンといわれる様々な種類のセラミックの粉を盛り上げて、先に記録を取ったシリコンの型を参考にしながら窯で焼き上げます。このとき難しいのは、焼くとセラミックは収縮するのでやや大きめに作る必要があり経験が必要な作業となります。
歯の色は、印象時に実際の歯の色とあわせたシェードガイドの番号によって使うポーセレンパウダーの種類が決められていて、それに従ってパウダーを選択して作ります。すべての製作過程において適合状態は20倍の顕微鏡でチェックし、修正しながら作られていきます。
こうして作られた歯はお口の中にいれたときにきわめて高い精度で適合し、フロスをしても引っかからないお手入れのしやすい物となります。
歯が抜けて無い部分や歯周病により連結固定が必要な場合は、被せ物のクラウンを連結固定する必要があります。この作業を鑞着(ろうちゃく)と言います。
連結した歯を作る場合には、前もってワンピースでつながった歯を作る方法もありますが、印象の精度の問題から連結が長くなるほどクラウンの適合精度が悪くなります。
私のところでは50ミクロン(0.05mm)の適合精度を目指していますので、1歯ずつ適合をチェック出来るようブリッジは連結をしないで製作し、口腔内で咬合状態や適合状態をチェック・調整した後に、直接お口の中でとなり同士のクラウンを樹脂で固定をして鑞着作業にまわしています。1回来院回数は増えてしまうのですが、この方法の方がより適合精度の良いブリッジが製作出来ます。
Step1
ラボから出来上がってきたメタルボンドブリッジです。この時点では連結されていません。
Step2
同様に下顎のメタルボンドブリッジです。
Step3
1歯1歯バラバラに作られたメタルボンドクラウンです。長く角のように伸びているノブは歯の位置関係がずれないように、また固定作業がしやすいようにつけられています。
Step4
口腔内で適合と咬合状態をチェック・調整した後、パターンレジンという樹脂で固定します。
Step5
さらにその上から石膏で固定して、位置関係がずれないようにしてインデックス採得作業は終了です。この状態でラボに送ります。
Step6
ここからがラボでの作業です。送られてきたインデックスのメタルボンド1本1本にダイ模型を戻して、口腔内の歯列の位置関係を再現した作業用模型を製作します。
Step7
固定していた石膏とパターンレジンを取り除き、作業模型にメタルボンドを移します。
Step8
鑞着作業のための耐火模型を製作するために再度インデックスコアをとります。
Step9
耐火用埋没材に埋没します。
Step10
出来上がった作業用耐火模型です。鑞着部に鑞玉を配置してあります。
Step11
金属鋳造や鑞着作業を行うファーネスとよばれる機械です。ある程度まではコンピューター制御ですが技工士の経験と勘がものをいいます。
Step12
鑞着作業終了です。このあと研磨作業を行います。
Step13
作業模型に戻して適合状態をチェックします。
Step14
ラボから出来上がってきた鑞着されたメタルボンドブリッジです。これを口腔内にセットします。
初診時口腔内(2002.08.28)
1)主訴:歯ぐきの違和感と出血
2)診断:不適合補綴物による歯肉炎
3)年齢・性別:66歳・女性
4)抜歯部位:なし
5)治療計画:根管治療>インプラント、補綴治療
6)治療期間:約9ヶ月
7)治療費:約300万円
8)リスク:根面カリエス、歯根破折、インプラント周囲炎のリスク
治療終了時口腔内(2003.05.21)
66歳の女性。歯ぐきの違和感と出血を気にされてご来院されました。メタルボンド、ゴールドクラウンなどにより全顎にわたる補綴がされています。
歯周病の問題はありませんが補綴物は全顎にわたって不適合でプラークが蓄積し、それが原因となって歯肉出血と違和感を来していると思われます。
根管治療の不良の歯や根尖病巣のある歯も認められました。
いくら良い材料の物であっても、プラークの蓄積してしまう不適合な補綴物では病気を作るもとになってしまいます。大事なのは補綴物の材質ではなく、適合、機能的な形態、与えられている咬合関係といった補綴物の質です。
バイトウイングによる臼歯部のレントゲン写真には不適合なクラウンが入っていることがわかります。
これでは患者さんはいくら時間をかけて磨いても、プラークを取り除くことは出来ません。
以前の根管治療時には、ラバーダムを使用していなかったため患者の希望により失活歯は再度根管治療を治療を行いました。
左下は支台歯にかかる負担を考慮して、延長ブリッジではなくインプラントにより補綴を行いました。補綴物の適合が改善されたため、歯肉の状態は改善し、出血もなくなりました。
1)主訴:前歯の入れ歯が壊れた
2)診断:成人性歯周炎、上顎前歯部フラビーガム
3)年齢・性別:53歳・男性
4)抜歯部位:右上6番
5)治療計画:仮義歯作成>歯周病治療、根管治療>補綴治療
6)治療期間:約2年
7)治療費:約200万円
8)リスク:根面カリエス、歯根破折のリスク
今回紹介するのは非常にまれなケースです。当初は果たしてどれだけ維持出来るのか疑問でしたが、それなりの結果が出てきたため解決方法一つのとしてご紹介します。
患者は50代の男性。1997年11月に前歯部の義歯のクラスプが脱落してご来院されました。
上顎前歯欠損部の口腔粘膜は義歯の辺縁が食い込み、フラビーガム(こんにゃく状歯肉)となっていました。下顎大臼歯部が欠損しているため、前咬みになっていることがフラビーガムと義歯破損の原因と思われます。
現在まで何度も義歯を作り替えましたがその度に壊れてしまいます。自分は肉が大好物なのですが、義歯になってから肉を食べようとすると義歯が壊れてしまうので、怖くて食べられなくなりました。安心してステーキが食べられるような固定式の物になんとか出来ないのかと相談を受けました。
今ならインプラントという選択肢がありますが、当時はまだ普及しはじめの頃であり予後が不透明であったため選択しませんでした。上顎の残存歯は右が5、6、7番、左が1、2、3、7番です。このうち右の6番は歯周病により骨がなく、左の1番はカリエスが進行しており保存不可能と判断しました。
患者さんの希望に応えられる補綴物を残った残存歯でどのように実現したらいいのか悩んだ結果、残存歯の位置関係が四隅に近い状態にあることから、コーヌス(二重冠)タイプのフルブリッジにて補綴することにしました。少なくなった残存歯をフルブリッジにて連結固定することで、強い咬合力から保護し、冠を2重にすることで脱落してもカリエスなどの問題から守れる点、万が一残存歯が失われてもコーヌスタイプの義歯に移行できることから本設計に決定しました。
治療開始2年後、上顎に内冠をセットした状態とフルブリッジセット後の口腔内写真です。下顎は5番の遠心移動を行い右側はやや近心傾斜している8番を使ってテンポラリーブリッジを入れて、臼歯部の咬合面積を確保しています。
2002年、治療終了時の口腔内写真です。久しぶりにビフテキを食べられたと喜んでおられました。
2010年術後の口腔内写真です。口腔清掃は上達し良好です。この間、数回上顎のブリッジは脱離を繰り返しているが、残存歯は維持され機能し続けています。
初診時口腔内(2005.08.14)
1)主訴:ブリッジの歯茎が腫れて痛む
2)診断:重度成人性歯周炎
3)年齢・性別:56歳・女性
4)抜歯部位:右上3番4番6番、左下4番6番
5)治療計画:仮義歯作成、歯周病治療(SRP)>再評価>補綴治療
6)治療期間:約8ヶ月
7)治療費:約150万円
8)リスク:根面カリエス、歯根破折のリスク
右上および左下のブリッジの歯ぐきがはれて痛むためご来院されました。上下顎とも、義歯を支えていたブリッジがぐらぐらして物がかめなくなりました。歯周病が原因で歯がぐらぐらしていることは知っていましたが、歯周病に関しては何ら治療を受けていません。歯周病を治療せずに義歯を入れるとどうなってしまうかを示すケースです。右上の犬歯はかなり下方に挺出しています。
ブリッジの支台歯の注意には骨が無くなっています。下顎の1~2番の間にも垂直性の骨吸収が認められます。上顎犬歯と左下犬歯は不適切な根管治療を受けており根尖病巣が認められます。
右上と右下臼歯部のポケットは10mmをこえており、ブリッジ全体が動揺しています。
赤はBOP(プロービング時の出血)を示します。下顎前歯以外は全て抜歯することとなりました。
下顎前歯は歯周治療後、メタルボンドブリッジにて一体化固定をはかり局部床義歯の鈎歯としました。上顎は金属床の総義歯、下顎はRPIのキャストパーシャルデンチャーにて補綴を行いました。
右下犬歯は歯周ポケットからの感染により上行性歯髄炎をおこし、根管治療を行いました。
骨吸収の認められた右下2番はだいぶ改善してきています。
「ブリッジをすると歯がだめになるからしたくない。」ということを言われる患者さんがおられます。ブリッジは歯をだめにするから、インプラントが良いと勧める歯科医師の方もいらっしゃるようです。
ブリッジにすると歯の寿命が短くなるのでしょうか?私はそうは思いません。ブリッジも正しい咬合関係を与えた適合の良い補綴治療行い、その後のメンテナンスをしていけば長くもつと考えています。
下記の症例は、開業当初に治療させていただいた患者さんですが、入れたブリッジは当時の状態のままで、1本も歯を失うことなく維持されています。
初診時のレントゲン写真(1993.06)
右上5番右下6番左上4、5番は残根状態、左下6番は欠損しています。この当時はまだインプラントを導入しておらず、選択肢としてブリッジしかありませんでした。
口腔内写真(2015.02)
補綴治療後、実に20年経過していますが全ての歯が良好な状態で維持されています。
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
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