この記事の著者・監修者
院長:戸梶 仁聡(とかじ ひろあき)
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
資格・所属学会
- 日本矯正歯科学会認定医
- 歯学博士
- 上智大学カウンセリング研究所認定カウンセラー
- NCC認定カウンセラー
- 日本矯正歯科学会
- 日本歯周病学会
- アメリカ歯周病学会
歯科医療におけるメンテナンス(検診)をどのように考えたらよいでしょうか?
先日、東京大学医学付属病院22世紀医療センターで人間ドックの検診を受けた時に担当医から受けた話が大変参考になると思ったのでご紹介いたします。
馬場 一美 著 歯ぎしりQ&A 医学情報社より引用
このグラフは縦軸に病気の進行度、横軸に時間をとった場合の様々なタイプの疾患を示したものです。
ある検査によって病気が見つかるには、ある程度病状が進行が必要です。
その境界を判定限界とします。
ここでは病気の進行がゆっくりの疾患Aから急速に進む疾患Cまで異なる3つの疾患を示しました。
疾患Aは検診1と2の時点では見つからず、3の時点で見つかりました。
疾患Bは検診2のときに見つかりますが、この時期を逃すと自覚症状が出現します。
そのまま放置した場合、検診3の時点では治療不可能となってしまいます。
さらに急速に進行する疾患Cでは、検診1では疾患は存在せず、検診2のときにはすでに治療不可能な状態になってしまうため、これに対処するためには検診のインターバルをもっと短くする必要があります。
このように疾患のリスクに応じて、検診の時期は変える必要があり、たとえ検診時に疾患が見つからなかったとしても安心せずに、自覚症状が出た場合はすみやかに受診することが大切です。
とかじ歯科では治療を終えた方に定期検診を行っています。治療することは大事ですが、それ以上にメンテナンスで治療したところを維持しながら、新たな病気を作らない様に予防していくことが重要です。
検診の間隔は、リスクの程度、メンテナンスの状態、患者さんの希望などによって決められますが、通常3ヶ月から半年となっております。検診時には以下の内容の検査を行います。
01
生活環境や体の健康状態を含めて変わったこと、気になることがなかったか、お聞きします。
02
虫歯の有無、歯と噛み合わせの状態、口腔粘膜、舌などを含めた軟組織の状態をチェックします。
03
1年に1回は全体のレントゲン検査を行い、虫歯の有無や根管治療の予後、歯根破折の有無、歯槽骨の変化などをチェックします。
04
歯周ポケットをチエックすることで、歯肉炎や歯周炎、歯石の付着の有無などをチェックします。
05
必要であれば、顎関節のチェックなどを追加で行います。
以上のチェックを検診時に行い、記録を残して蓄積していきます。何か問題が生じても、さかのぼって記録をチェックすることで、問題の手がかりや原因の究明に役立ちます。
左に示すレントゲン写真は先日、検診来院時に撮影されたものです。治療後約18年が経過しておりますが、良くメンテナンスされており、これまで良好な経過を維持されてきましたが、7番の近心部ブリッジのマージン下部分の歯根表面(黄色矢印部分)に凹みが見つかりました。
7番の近心と6番の遠心(黄色矢印)に凹みが見つかりました。
いずれもきれいに削りこまれたようなかんじで、虫歯とは異なる様に思われ、思い当たる節がありましたので、以下の様に質問致しました。
ここの歯の間はフロス以外に歯間ブラシも使ってお手入れされていますか?
はい。
どの様に使われていますか?
歯間ブラシには、ストレートのタイプと、L字のタイプがあります。
この患者さんは、ストレートのものを一番奥のこの部位に使われていました。
前方から入れる様になるので、どうしてもブラシの角度が歯間に対して斜めになってしまいます。さらに、気持ちが良いからということで、その状態で回転させていたとのことでした。
歯間ブラシの針金により、歯根表面が削り取られていた様です。ただちに歯間ブラシはL字のものに変えていただき、正しい使い方をお話ししました。
私たちがいくら徹底的に感染源を除去したとしても、お口の中から細菌をなくすことは出来ません。
この地球上から感染症をなくすことが出来ないのと同じように、お口の中から虫歯や歯周病の原因菌をなくすことは出来ないのです。
そのためプラークコントロールを毎日続けていただくことが重要ですが、私たちは人間ですから、毎日日記を書き続けるのと同様に、毎日きちんとプラークコントロールし続けることは非常に困難です。
どうしても手抜きになったり、やってるつもりになったりしてしまいます。
また、私たちが入れたインレーやレジンの詰め物、クラウンやブリッジの被せ物・義歯・インプラントは作りものです。
車や建物と同じように経年的に劣化し、メンテナンスをしなければ、明らかに寿命は短くなります。
アクセルソンとリンデたちの30年間に論文が以下になります。
Axelsson P, Nyström B, Lindhe J.
The long-term effect of a plaque control program on tooth mortality, caries and periodontal disease in adults.
Results after 30 years of maintenance.
J Clin Periodontol.
2004 Sep;31(9):749-57.
この研究は、1971~1972年に来院した患者555名中375名をテスト群に、残りの180名コントロール群に分けて、0・3・6・15・30年後のお口の状態をチェックし、データーを採っています。
テスト群ははじめの2年間は2ヶ月に1回、その後は3~12ヶ月に1回の来院頻度とし、来院ごとに歯科衛生士による染め出しと、PMCT(機械的歯面研磨)およびフッ素塗布を行っています。
1971~1972年のメンテナンス開始時の年齢によって、次の3つのグループに分けて、定期的にメンテナンスを行った人が30年間の間に失った歯の平均本数をみてみると、次のようになります。
0.4本(50~65歳時までの間)
0.7本(66~80歳時までの間)
1.8本(81~95歳時までの間)
3.7本
5.0本
7.1本
この数字がいかに驚異的な数字であるかは、比較してみるとよくわかります。
アクセルソンたちのコントロール群は残念ながら6年後までのデーターしかないので、テスト群との比較はできませんが、6年後でテスト群0.2本に対し、コントロール群は0.7本でした。
歯を失った原因の多くは歯根破折であり、歯周病や虫歯によるものは、わずか21歯です。
アクセルソンたちの研究から、50~65歳で20本以上自分の歯が残っている人の割合は、95%以上であり、20~35歳からメンテナンスを30年間続けた場合、95%以上の人が20本以上自分の歯を残すことに成功しています。
1.2本
1.7本
2.1本
このうちの約80%は、以前に虫歯治療を行った部位の2次的な虫歯でした。
このことは、メンテナンスを続ければ、新たな虫歯の発生もほとんどないということを示しています。
このように、メンテナンスを継続していくことは、失う歯の数を減らし、歯の健康状態を維持するために大きな効果をもたらします。
とかじ歯科では、一人ひとりの患者さんのメンテナンスチャートを作成し、リスクに応じた間隔でメンテナンスを行っています。
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
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