この記事の著者・監修者
院長:戸梶 仁聡(とかじ ひろあき)
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
資格・所属学会
- 日本矯正歯科学会認定医
- 歯学博士
- 上智大学カウンセリング研究所認定カウンセラー
- NCC認定カウンセラー
- 日本矯正歯科学会
- 日本歯周病学会
- アメリカ歯周病学会
プラークコントロールという言葉は、TVなどで良く耳にしてご存じだと思います。それでは、プラークとは何でしょうか?とお聞きすると、多くの方がはっきりとはわかっていらっしゃいません。プラークとは細菌のコロニー(集合体)の事を言います。人のお口の中にはおよそ500-700種類にものぼる細菌がいることがわかっています。プラーク自体は、歯の表面についている薄いオブラートの膜のような物で、目で見ることが出来ません。目で見ることの出来る歯垢(しこう)は食べかすとプラークが混ざった物です。
虫歯と歯周病の原因のところでお話ししましたように、このプラークこそが病気の源であり、これをハブラシなどで、こすって落とすことが予防になり ます。プラークを完全に除去しても、お口の中から細菌がいなくなったわけではありません。ただ、病原性が無くなっただけで、時間とともにプラークが再形成 されます。それに要する時間が24時間であることが実験で確かめられています。 また、歯肉炎は磨くのをやめてから、3−4日たつと起きることもわかっています。
図1の写真は、数日歯磨きをしていないのお口の中を見たものです。
汚れがたまっているのがわかると思います。
プラークを赤く染めるお薬で、染めた状態が図2の写真です。
汚れているところは、真っ赤に染まっていますが、それ以外のところと青の円で囲んだところは、汚れがついているようには見えません。
ここはプラークだけがついていたところです。
前述しましたように、プラーク自体は、薄いオブラートの膜のようなもので、目で見ることが出来ないのです。
プラークを電子顕微鏡でみたものが、図2の右の写真です。
線状菌や球菌・桿菌といった様々な形の細菌が集まっているのがわかります。
さらに拡大した右端の写真はコーンコブといって、線状菌に多数の球菌が結合したものです。
成熟したプラークによく見られます。
歯肉縁上プラークに最もよく見られる菌は連鎖球菌で、その中でもミュータンス菌は最も有名な虫歯の原因菌です。
歯石の直接原因はプラークであり、プラークがなければ歯石は形成されません。
石灰化の早さは2週間で1ヶ月もすると、頑固に歯面に付着した歯石となります。
歯肉縁上歯石は黄味を帯びたものが多いのに対し、歯肉縁下歯石は褐色から黒っぽい色をしたものが多いです。
歯石の有機成分は菌体であり、細菌の内毒素が含まれているため、周囲組織に毒性を与えます。
集落形成期 | 0~8時間 | 連鎖球菌などの好気性菌が主体となり歯面に付着 |
---|---|---|
急速成長期 | 8~48時間 | 放線菌などのグラム陽性桿菌が増えてくる |
成熟期 | 3~5日 | 好気性菌よりも嫌気性菌の割合が増えていく |
嫌気性菌成熟期 | 5日以降 | スピロヘータ・運動性ビブリオなどが出現する |
歯石形成期 | 2週間~1ヶ月 |
正体は細菌の集まった薄いオブラートのような膜状のもので、これをバイオフィルムと言います。
プラーク1mgあたりの細菌数は10億といわれ、様々な種類の菌が共生関係を営んでいます。
これらの細菌は常在細菌といって、健康な人の口の中には普通に存在する菌です。
しかしながら、細菌は自然にわいて出るものではなく、かならず感染という形で移ったものです。
生まれたばかりの赤ちゃんには細菌がいません。
通常生後、一緒に暮らしている家族から感染して細菌が住み着きます。
これらの常在細菌は、虫歯や歯周病の原因となりますが、一方では外来性菌が定着すること許さず、感染から守ってくれています。
細菌の大きさは0.5~100ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)で、グラム染色で染まるグラム陽性菌と、染まらないグラム陰性菌に分けられます。
この違いは細菌の菌体表面構造の違いによるもので、これが細菌の性質の違いにもなっています。
グラム陽性菌は15~80ナノメートル(1ナノは1000分の1ミクロン)の厚いペプチドグリカンの細胞壁をもっています。
(細胞壁は人の細胞にはない。)
一方、グラム陰性菌は7ナノメートルの外膜と細胞壁の表層を取り囲む粘液質の物質からなる莢膜をもっています。
多くの莢膜多糖体はバイオフィルムの形成因子であることが知られています。
ほぼ均一な厚みで周囲との境界が明瞭
不定形で境界不明瞭
物体表面に層を形成し複数の菌が内部で生存
別の分類方法として、酸素のある環境下で生きられる好気性菌と生きられない嫌気性菌に分ける方法があります。
歯肉縁上プラークの表層によく見られる連鎖球菌は、少量の酸素があっても生きられる通性嫌気性菌です。
一方、プラークの内部を形成する多くの菌と歯周ポケット内細菌は嫌気性菌です。
プラークのほとんどは嫌気性菌からなっています。
口腔内細菌は、唾液などの体液成分を栄養素としており、私たちが食べものとして摂取したものとはほとんど関係なく生きています。
歯肉縁上プラークの細菌は唾液中のアミノ酸をタンパク源として生活しており、また食物中のブドウ糖や果糖なども栄養源としています。
歯周ポケット内細菌は歯肉溝浸出液中のアミノ酸をタンパク源としています。
台所の流しの排水口のところなど、ぬるぬるとしたものがへばりついていますね。
これを落とすには水を流したくらいではダメで、たわしでこすらないと落ちませんよね。
これがバイオフィルムで、口の中ではプラークと呼ばれているものです。
ぬるぬるとしているものの正体は先に述べたように莢膜多糖体です。
この莢膜多糖体は糖であるがゆえに、非自己として認識されないために免疫応答がおこらず、免疫細胞の攻撃から菌を守っています。
また、抗菌薬も多糖体内部に浸透することが出来ず、テレビのコマーシャルで見ているような細菌の破壊は決しておこりません。
したがって、現時点ではブラッシングが唯一効果のある予防方法になっています。
では、どれくらい磨けば病気を予防できるのでしょうか?それはリスクによって違ってきま す。
リスクの高い人ほど時間と手間をかけて、念入りに磨く必要があります。たとえば、虫歯になりやすい人は、ハブラシの他にフロスも使う必要があります。 歯周病で歯ぐきがやせている人やブリッジの入っている人は、歯間ブラシも使う必要があるでしょう。
磨く頻度ですが、プラークの再形成に要する時間が24時間であることから、完璧に磨ければプラークコントロールは1日1回でも大丈夫なはずで す。しかし、それは不可能に近いので、現実には食べたら磨くのが理想です。もしもそれが出来ないときは、1日のうちで1回は時間をかけて丁寧に磨いていた だきたいと思います。
プラークはプラーク染め出し液を使うことによって、見えるようになります。
これは是非やってみて下さい。どこが染まるでしょうか?そこを磨いていただきたいのです。
よく染まるところは、下記項目です。
4は工夫してもうまく磨けない場合があります。
そのような場合は、詰め物・被せ物をやりかえることをおすすめします。
歯ブラシは毛先でこすってプラークを落とす道具です。
力を入れすぎるとかえって汚れは落ちないばかりか、歯や歯ぐきを傷つけいためます。
正しい力の入れ方・当て方をマスターしてください。 歯磨き粉には、フッ素入りの物を使うと予防効果が高まります。
ただし、あまりつけすぎると、泡だらけになってきちんと磨けません。量は少なめにしましょう。
そのほかリスクに応じて、フロス・歯間ブラシなどを併用してください。
歯磨剤は歯ブラシの使用時に、プラークとステイン(着色)の除去を目的として用いられています。
その基本成分としては以下のものが用いられています。
プラークやステインなどの歯の表面の汚れを落とす。
リン酸水素カルシウム・水酸化アルミニウム・無水ケイ酸・炭酸カルシウムなど
歯磨剤に適度の湿り気と可塑性を与える
ソルビトール・グリセリンなど
口中に歯磨剤を拡散させ、口の中の汚れを洗浄
ラウリル硫酸ナトリウムなど
粉体と液体成分を結合させ、保型性を与え、適度の粘性を付与
カルボキシメチルセロースナトリウム・アルギン酸ナトリウム・カラギナンなど
爽快感と香りづけ
サッカリンナトリウム・メントール・ミント類など
変質の防止
パラベン類・安息香酸ナトリウムなど
見た目の調整
法定色素
再石灰化の促進・歯質耐酸性向上
フッ化ナトリウム・モノフルオロリン酸ナトリウム
出血防止→トラネキサム酸・イプシロンアミノカプロン酸
消炎・解毒・抗アレルギー作用→βーグリチルレチン酸
消炎・血行促進→ビタミンE
消炎→オオバエキス
歯垢分解除去
デキストラナーゼなど
殺菌効果
トリクロサン・ビオゾール・塩化セチルピリジニウム
象牙細管封鎖・痛み刺激遮断→乳酸アルミニウム
神経鈍麻作用・痛み刺激遮断→硝酸カリウム
ヤニの溶解除去
ポリエチレングリコール
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
©とかじ歯科 All Rights Reserved.