この記事の著者・監修者
院長:戸梶 仁聡(とかじ ひろあき)
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
資格・所属学会
- 日本矯正歯科学会認定医
- 歯学博士
- 上智大学カウンセリング研究所認定カウンセラー
- NCC認定カウンセラー
- 日本矯正歯科学会
- 日本歯周病学会
- アメリカ歯周病学会
根管治療がなかなかうまく行かず、何ヶ月もの間、痛みや違和感で困って当院へ来院される患者さんが多くいらっしゃいます。もう抜歯しかないと言われて、わらをもすがる思いでいらっしゃる患者さんもいます。
そのような患者さんを拝見すると、そのほとんどがラバーダムを使わずに、薬で治そうとしているのです。つまり、感染のコントロールをきちんとしていない状態で強い薬を過度に使って、生体組織をかえって痛めつけて痛みを引き起こしているのです。
根管治療の基本は、根管内の感染の除去です。その感染源はお口の中にいる細菌なのですから、根管治療中に細菌を持ち込まないように防御することがいちばん重要です。ラバーダムをせずに治療のたびに感染を起こして、それを薬で消毒するというのは本末転倒です。
ラバーダムで感染のコントロールをして、体に治す力を起こさせるようなマイルドな根管貼薬剤を2~3週間使用すれば、多くの場合症状は改善していきます。
通常私のところでは、根管治療は特別な問題がない限り、2~3回の通院で終わります。治療が長引けば感染の機会が増えるため、得策ではありません。
また、マイクロスコープは有効な器具ですが、感染のコントロールがきちんとできなければ治すことは出来ません。
私はこのような根管治療の基本をスウェーデンのイエテボリ大学歯内療法科の専門医の先生方に教えていただきました。治療において何が一番大切なのかを気づかせていただいたのです。その知識は、先人の膨大な臨床基礎研究の積み重ねから得られたものです。
私はその正しさを日々の臨床で実感しています。どうかそのような治療をしていただける先生を捜してください。一人でも多くの患者さんが、ラバーダムをして安全な根管治療が受けられるようになることを願っています。
人工歯根に使われるチタンは、骨と直接結合する性質があります。そのためインプラントは自分の体の一部のようになり、物を噛んだときの感覚も顎の骨に直接伝わりしっかり噛むことができます。酸化チタンという性質上、アレルギーの心配もほとんどありません。
1. 根管治療を行った後、一時的に痛みが出ることがあります。これは根管治療によって根尖部の病巣が刺激されて一時的に炎症が強まるために起こります。根管内にいれてある消毒薬により炎症は徐々に落ち着きますので、通常は3~4日、病巣の炎症が強い場合でも6日ほどで落ち着く場合がほとんどです。腫れや痛みが徐々にひどくなる場合はご連絡ください。
2. 食事をしていくうちに仮詰めの部分が削れて穴が開いたようになることがありますが、詰め物は深く入っていますので、仮歯が壊れたりしなければ心配ありません。もし仮歯が壊れた時はすぐに連絡をしてください。
3. 根管治療中は歯の強度が低下しているため、そこで堅いものを噛んだり、くいしばったりするのは極力避けてください。
4. 抗生物質を服用するように出ている患者さんは、腫れや痛みが治まっても最後まで薬を飲んでください。
5. 炎症がある場合は夜更かしや過労を避け、体調管理に気を配ってください。風邪をひいたりすると悪化することがあります。飲酒も控えてください。
ラバーダムとマイクロスコープ(顕微鏡)を使って治療を進めます
歯の神経の治療で最も大切なのは、内部に侵入した細菌の除去です。その時に必ず必要になるのが、ラバーダムというゴムのマスクです。
これは、細菌の巣であるお口の中から治療している歯を隔離して、治療中に新たな細菌が中に入らないようにするためのものです。
根管内は体の中で唯一、免疫機能が十分に働かない場所なのです。
それは、免疫細胞であるマクロファージや白血球といった細胞たちの供給経路である血管の入出経路が、根尖に限定されていることが大きな理由です。
そのため、ほんのわずかな量の細菌が残存もしくは進入しただけで根の先に炎症が起こってしまいます。
お口の中はバイ菌の住み家です。
ラバーダムをしないで根管治療をすることは、手術を手術室ではなくゴミ置き場でするようなものだと思ってください。
ラバーダムを行って治療した場合とそうでない場合とでは、治療成績が10倍違うことがわかっています。
もちろん器具も毎回滅菌したものを使用しています。
また、根の内部という見えないところを治療していきますので、マイクロスコープ(顕微鏡)を使って治療していきます。
これを用いることで、今までは見逃していた神経の管や根の奥の汚れ、問題点なども新たに見つけることが出来るようになり、治療の成績が向上します。1回の治療時間はおよそ1時間です。
上の写真は根の治療に使う機材です。
ひとりひとりこのような滅菌をしたパッケージを使い、バイ菌が感染するのを防いでいます。
根管治療にラバーダムは必要か否かで色々と議論があるようですが、私は根管治療でもっとも大切なものがラバーダムだと考えています。確かにラバーダムをしなくても、簡易防湿などの配慮をすれば、根管治療によって問題を起こすことはそう多くはないでしょう。かくいう私もイエテボリで学ぶまでは、ラバーダムを使用していませんでした。
ラバーダムの見解が異なるのは、各医療者によって治療のやり方に違いがあることと、治療結果の評価基準が異なるからです。病変がきちんと治ってはじめて成功とするのか、痛みなどの臨床症状が無ければ成功とするのか、どれくらい経過を見ているのかによって評価は異なります。
ラバーダムを全てのケースに行なうようになって、それによって起きた変化に驚いたのは他ならぬ自分自身でした。ラバーダムによって起きた変化をまとめてみると、以下のようになります。
以前は根管治療後に痛みが出ることが時々ありましたが、それが少なくなり、出ても軽度なものとなりました。
以前よりも難しい根管治療の患者さんが来られているにも関わらず、治療後に痛みが出たり、数年後に再治療となるケースが大きく減少しました。
臨床症状がなかなかおさまらず、根管治療に何回もかかるケースがなくなりました。
ラバーダムをきちんとすることによって、感染を疑う必要がなくなり、結果的にそれ以外の要因をである咬合や破折の問題を発見しやすくなりました。
根管治療で症状が改善しないケースはほとんどなくなり、治療中に痛みが出るケースも以前に比べると10分の1くらいに減りました。これが私の臨床実感です。
根管治療になった歯の多くは、大きな修復物であったり、虫歯が広範囲に広がっていて、最終的に詰め物や被せものといった補綴物を入れなくてはならない場合が多いです。
特に奥歯の場合は、硬いものを噛むという役目や、かみ合わせの位置を決めるという大事な役目がありますから、強い力がかかっても壊れないような構造物であることが必要です。特に神経を失った歯は歯根破折を起こしやすくなるため、被せものにしたほうが、金属や樹脂で穴を埋めるといった詰め物で済ます方法よりは安全です。歯を削って被せものにすると、虫歯になりやすくなって寿命が減ると思われている方が多いですが、それは補綴物の質によります。顕微鏡でぴったり適合した被せものを作ると、お手入れがしやすく長持ちするものが出来上がります。
米国インディアナ大学の研究によると根管治療を受けた歯の平均生存年数は約11年であり、そのうち、根管治療後すぐに被せものを装着した歯の平均生存年数は約20年であったという結果が出ています。
根管治療中に治療を中断したり、しばらく補綴をしないでいると、歯の寿命を縮めてしまう結果に繋がります。虫歯になりにくい適合の良い補綴物を入れて、日々のお手入れをしていただき、定期的に検診でチェックを受けていただくことが、長持ちさせる秘訣です。
Step.1
右上の奥歯に痛みを訴えて来院された患者さんで、レントゲン写真で上の大臼歯の間に大きな虫歯が認められました。
口腔内を見ると詰め物の後ろ側の歯が欠けて穴があいています。
Step.2
麻酔をしてから詰め物をはずします。中の方まで虫歯で空洞が出来ており、歯茎が増殖して穴の中を覆っています。
Step.3
増殖した歯肉を取り除き、虫歯の部分を完全に取り除いた写真です。
中央部分に神経の一部が赤く見えています。
Step.4
根の治療にあたり、外から細菌が入らないように隔壁をレジンにて作ります。
Step.5
土台の形に仕上げ、上に仮歯を入れて、歯の形を復元しました。
Step.6
ラバーダムというゴムのマスクをつけて、口の中の細菌が入らないようにした上で、仮歯に穴を開けていきます。
神経組織が見えてきました。
Step.7
根の入り口を確認します。
Step.8
通常この大臼歯の根の数は3本ですが、うち1本の根には神経の管が2本みつかりました。顕微鏡で拡大してみることによって、神経の管の見落としを防ぐことが出来ます。
Step.9
感染した神経組織を除去した後に根管内を消毒します。
Step.10
最後に殺菌のお薬を入れてこの日の治療は終わりになります。
Step.1
穴が3カ所見えますが、両端の穴は神経の管の入り口ですが、中央の穴は間違って開けられたものです。出血が認められます。
Step.2
創傷部の消毒を行い、水酸化カルシウムで数日間、感染の除去を行います。
Step.3
再来院時に再度消毒を行い、止血していることを確認します。
Step.4
創傷部をMTAセメントで閉鎖します。
Step.5
その上をレジンで封鎖します。
このように感染の除去を行い、出血をコントロールすることによって、穴をきちんとふさぐことが出来れば、その予後はとても安定しています。
上顎大臼歯は上顎洞という副鼻腔に近接しているため、歯の根尖病変が副鼻腔炎の原因になっていることがあります。これは歯性上顎洞炎と呼ばれています。通常鼻性上顎洞炎は両側性に起きることが多いですが、歯性上顎洞炎はその作用機序から片側性であることが多いです。
Fさんは風邪や花粉症の季節になると毎年上顎洞炎に悩まされていました。左上7番に根尖病変が見つかり根管治療したところ、根管内からはかなりの腐敗臭があり、排膿が認められました。
左上小臼歯から大臼歯の根尖付近に上顎洞の下壁を示す白いラインが認められます。7番の根尖部付近ではそのラインが途切れ、周囲に黒い影の部分が出来ていることに注目。
根管充填後の7番。根尖周囲の黒いレントゲン透過像は縮小してきています。上顎洞内も治療前はやや白く濁りが見られましたが、治療後では濁りがとれて黒く見えます。
治療後はすっきりしており、花粉症の季節になっても今年は副鼻腔炎にならず快適だということです。かつて上の奥歯の神経の治療をしていて、副鼻腔炎に悩まされている方、それは歯が原因かもしれません。
左上2番の歯茎が腫れて来院された26歳の女性の患者さん。
2週間ほど前に同部位がズキズキ痛み寝れなかったため、某歯科医院を受診しました。根の先に膿がたまっていると言われて根管治療を受けましたが、痛みが止まらず歯茎が腫れ始めてしまいました。別の医院を受診したところ、根尖部分に器具が折れて残っているので、歯茎を切って根の先を切りとる手術が必要と言われました。
なんとか手術をしなくて済む方法は無いかとインターネットで色々と調べて、当院に来院されました。
レントゲンを撮ってみると、根尖部に折れたリーマーがありました。これが感染源になって歯茎が腫れている可能性が高いようです。ラバーダム防湿をして、滅菌された器具を使っていれば、このような事は起こりません。
手術は避けたいという患者さんの希望により、通常の根管治療での除去を試みる事にしました。幸い前歯で根管がまっすぐなのと、折れたリーマーが長いので、マイクロスコープを使えば除去できる可能性は高いです。
私の医院には、根管治療で痛みが取れずに困って来院される患者さんが多くいらっしゃいます。
顎顔面領域に出現する痛みの原因は多岐にわたり、必ずしも痛みの部位と原因部位が一致しなかったり、痛みが長期に及ぶと、原因歯以外の部分も痛く感じられることなどから、原因の特定が難しいものです。そのため、必要のない歯を治療してしまったり、抜歯してしまう診断ミスが起こりやすいのです。
左下奥歯がしみて、噛むと神経にずきんと来て痛い。上の歯も痛む。
初診時の口腔内写真
左下7番は詰め物が除去、4番は神経が除去されて仮封してあります。
初診時のレントゲン写真
左上6,左下4,5,6は根管治療がされています。
1
ほとんどの場合は歯に原因があります。
・歯原性疼痛(90%)
・関連痛
├ 筋肉に原因があるもの(7%)
└顎関節に原因があるもの(2%)
・神経因性の痛み(1%未満)(三叉神経、舌咽神経痛、帯状疱疹後神経痛、非定型性歯痛)
・心因性疼痛(1%未満)
歯原性疼痛が圧倒的に多く、9割をしめています。関連痛は9%で、実に99%は歯科の領域の問題です。残りのわずか1%が神経因性、心因性の痛みです。
2
虫歯や歯ぐきの異常の有無、歯の変色などをみます。
歯の動揺や歯肉部分の圧痛などをみます。
歯をたたいたときの違和感の有無をみます。
冷たい氷や熱い粘土様のものを歯に押し当てて、反応をみます。
微弱な電気を歯に流して神経が生きているか否かを調べます。
根の状態、周囲の骨の状態を調べます。
歯周ポケットの状態を調べ、歯周病、歯根破折との関連をみます。
肉眼ではわかりにくい歯のクラック(ひび)や見落とされている根管を探します。
3
4
これまでの病状の経過と検査結果から判断して、痛みは歯原性であると判断されました。右下4番の抜髄後に痛みが悪化していること、4番の温度診、打診による痛みがひどいことなどから、原因歯は他にもある可能性があるものの、4番に浸潤麻酔をしたところ、痛みが和らいだため、根管治療を行いました。その結果、マイクロスコープにて治療されていない根管を発見しました。2根管なのに1根管しか抜髄されていなかったため、残髄炎による痛みであることが判明しました。
しかしながら、左下奥歯の痛みは消失しませんでした。歯髄炎が進行すると、原因歯の対合歯も痛くなることから、右上の7番をマイクロスコープにて精査したところ、近遠心にクラックライン(矢印)を発見しました。中央部に充填されているアマルガムを除去したところ、歯髄まで及ぶ歯冠部破折を認めたため、抜髄を行いました。これにより痛みは消失しました。(かみしめが歯を壊す参照)
今回の痛みの初発の原因歯は左上7番歯冠部破折による歯髄炎であったと考えられます。患者はくいしばりがあり、7番のアマルガムがくさびとなって破折したものと思われます。左上6のアンレー(金属の詰め物)が外れたのもくいしばりによるもので、その分7番に力が集中したために破折を来した可能性もあります。
治療後の口腔内写真
清掃性の問題から左下5番は抜歯し、456のブリッジが装着されています。
現在はスプリントにて夜間のくいしばりを防止しています。
歯内歯とは、歯冠部の象牙質の一部が表層のエナメル質とともに歯髄腔内に深く陥入した形態異常歯のことで、英語で”dens in dente”といわれる。発生学的に、内エナメル上皮の一部が歯乳頭内に深く侵入・増殖したことにより生じたものと考えられ、歯髄腔内に歯質の陥入が見られ、この構造は外側に象牙質、内側にエナメル質と、本来の組織構造とは逆になっている。 出現部位は上顎側切歯に多いが、どの歯種にも認められる。出現率は報告者や歯種によりまちまちではあるが、0.04~10%と報告されている。
歯内歯は歯髄腔内への歯質の陥入であり、発育中の陥入歯質は外側歯質と逆の方向から血液の供給を受けているが、歯の萌出とともに血液の 供給がなくなり、壊死する。また、外側の本来の歯の歯髄も陥入歯質により圧迫されて狭小化するために、循環障害や歯髄壊死を起こしやすい。歯内歯の陥入部感染は一般的に無症状に進行し、X線検査で根尖性歯周炎像が偶然発見されることもあり、なおかつ患歯が生活反応を示す場合もあるので、診断の際に混乱をきたしやすい。
患者は14歳女性。歯科医院の検診時に偶然根尖病変が発見され、大学病院に紹介されたが、生活反応があったため、経過観察をしてきた。最近になって病巣が拡大してきたため、外科処置を行う前処置として、根管治療を依頼されて来院した。
初診時の口腔内写真
レントゲンにて歯内歯を認める。根尖は未完成状態で歯内歯の位置や歯髄の形態などを確認するためCTを撮影することにしました。
CT所見:歯冠部から歯根中央部にかけて歯内歯が認められ、水平断面では同心円状に中央から壊死組織、歯内歯エナメル質、歯内歯象牙質、歯髄組織と構成されていることがわかりました。
根尖付近に一層象牙質が残っていたため、そこまでを無菌的に清掃を行った後、MTAにて根尖部を閉鎖、上部をガッタパーチャにて充填処置を行いました。
治療後6ヶ月のレントゲン写真。病巣部に骨が再生しており、外科手術は回避されることになった。
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
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