この記事の著者・監修者
院長:戸梶 仁聡(とかじ ひろあき)
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
資格・所属学会
- 日本矯正歯科学会認定医
- 歯学博士
- 上智大学カウンセリング研究所認定カウンセラー
- NCC認定カウンセラー
- 日本矯正歯科学会
- 日本歯周病学会
- アメリカ歯周病学会
虫歯というと歯に黒く穴があいた状態を想像すると思いますが、ではどうやって穴が出来てくるのか、さらにはどこの時点で虫歯と呼ばれるものになるのかという点については良くわからないのではないでしょうか?
健康と病気の境目という物がはっきりしないのと同じで、虫歯か虫歯でないのかの境目もはっきりとした境目はありません。そもそも虫歯というのはどういうものなのか、虫歯の定義を教科書なるもので紐解いてみると、次のように書かれています。
う蝕(虫歯)とは、歯の表面に付着したプラーク内の細菌が糖質を代謝・分解することにより、有機酸(乳酸・酢酸・蟻酸・プロピオン酸など)を産生し、歯質表面で常に起こっている脱灰と再石灰化のバランスが脱灰方向へと崩れることによって歯質結晶が溶解して歯の構造が破壊されていく疾患である。
つまり、歯の表面においてはお口の中のpHの変動によって脱灰(Caなどのミネラル成分が唾液中に溶け出すこと)と再石灰化(溶けたミネラル成分が再結晶化すること)が常に繰り返しおきています。
私たちが食べ物を食べると口腔内の細菌によって酸が産生され、中性だったpHが徐々に低下し、pHが5.5以下になるとエナメル質の脱灰がはじまります。根の部分にはエナメル質がないので、pH6.3以下になると溶け出します。酸は唾液の緩衝能によって時間の経過ととも中和され、pHは中性に戻り、今度は再石灰化がおこります。
すなわち、プラークによって引き起こされる歯の無機質(ミネラル)の溶け出しと、唾液によって取り戻された無機質の分の差が歯質の喪失となっており、絶えずこの変化がお口の中ではおきています。このバランスが溶け出しの方へ偏りつづけると、ある時期に歯に穴があいて虫歯となるのです。
下の図にあるように、間食時に糖分を多くとる習慣があると脱灰の頻度が高まり、虫歯を作りやすくなることがわかります。
健康飲料水を含む多くの飲み物はpH5.5以下なので注意が必要です。
また、歯の表面に付着したプラークの量が多くなる場合もプラーク中の細菌によって作られた大量の酸により、平衡状態がくずれて脱灰が進んでしまい虫歯が発生します。
このように虫歯は、レントゲンでも判別できない初期の状態から肉眼でもはっきり識別できるような進んだ状態まで、さまざまな程度にカルシウムの脱灰が進んだ歯質の病巣であるといえます。
初期のエナメル質の脱灰の様子を顕微鏡で調べてみると、ミネラルの消失は歯の表面からおこるのではなく、エナメル質表面には1層脱灰していない層があり、その下部のところで脱灰が起きていることがわかります。
したがって1層残っているエナメル質はCaイオンの半透膜のような役目を果たしており、この膜が健全な初期の虫歯の状態においては、ホワイトスポットという状態で脱灰が認められます。
この状態の場合は再石灰化によって元に戻ることが期待できます。
ブラケットの周囲にエナメル質の脱灰(ホワイトスポット)が生じています。
(数字は脱灰の程度を示す)
矯正装置の除去により清掃が容易になったため、3ヶ月後には再石灰化がおきてホワイトスポットは消失してきています
壊れていないエナメル質の表層には唾液中に含まれるリン酸イオンやカルシウムイオンが通過できる極小の穴が開いています。
この穴を通じてイオンが出て行くのが脱灰、入って再沈着するのが再石灰化になります。
通常、歯の表面は唾液由来のリンタンパク質で覆われているため、歯の表面にリン酸イオンやカルシウムイオンは結合できません。ところがリンタンパク質は大きな分子であるために、エナメル質の表層の極小の穴を通り抜けることが出来ません。そのため、内部に入ったイオンは再沈着が可能なのです。
それでは次回は虫歯をどうやって診断し、どの時点で治療をするのか?についてお話ししていきたいと思います。
今回の内容は、以前に私を含む数名の歯科医師の先生方とで歯科雑誌「歯界展望2003年12月号」に発表させていただいた「歯科における臨床診断」を参考にまとめさせていただきました。
虫歯の診断は、大きな穴が開いている場合は明らかですが、歯の間に生じた初期の虫歯を視診で発見することは困難です。
かつて虫歯は非常に早く進行すると考えられ、見つけたら出来るだけ早期に治療することが重要と考えられていました。しかしながら、今日では数々の研究により虫歯の進行はかなり緩やかなものであることが明らかになってきています。それに伴い、虫歯の治療も変化し出来るだけ健全歯質を削らない方法で治療するようになってきています。(ミニマム・インターベンション)
では、歯を削る・削らないの境界線はどこに置くべきなのでしょうか?
その境界線を求めるためには、正確な診断方法に基づく意志決定の知識が必要となるのです。今回は私の考える虫歯の診断方法についてお話ししたいと思います。
虫歯の検査には通常、視診と探針による触診、レントゲン診査が併用されます。ここで大切なことは、診断のための検査がどれくらい病気を検出するのに有効なのかを知っておくことです。
私たち歯科医師の多くは、このような教育を受けてこなかったため、日本のほとんどの歯科医はこのような考え方なしに診断をし、治療をしています。かく言う私もこの考え方を学ぶまではそうでした。臨床検査にエラーがあるなどとは、考えてもみなかったのです。
私は実際の臨床において虫歯の疑いがある場合はマイクロスコープで見て、エナメル質表面に穴が開いていたら治療をすることにしています。
フッ素は虫歯予防にもっとも効果がある薬剤で、その効果を期待して多くの歯磨き粉や洗口剤などに含まれています。
もともとフッ素は歯の構成成分のハイドロキシアパタイトに作用して、酸に溶けにくいフルオロアパタイトを作ることで虫歯予防に効果を発揮すると考えられてきました。
しかしながら、最新の研究からフッ素が脱灰の進んだ歯質に対して再石灰化を促進させる効果をもつことが明らかになってきました。
しかしながら、最新の研究からフッ素が脱灰の進んだ歯質に対して再石灰化を促進させる効果をもつことが明らかになってきました。
この効果は0.05ppmFという低濃度で起こり、歯磨き剤に含まれているフッ素が洗口によって薄まってしまっても効果があることの根拠になっています。
1000ppmFの高濃度フッ素においては、フルオロアパタイトとフッ化カルシウムが歯の表面に形成され、そこから長期間にわたって放出される低濃度のフッ素が再石灰化を促進し続けることがわかってきました。フルオロアパタイトはフッ素の貯蔵庫(リザーバー)です。
虫歯の治療で大切なのは、細菌が感染している歯質の完全な除去です。象牙質の感染している部分は軟化象牙質と呼ばれ、その名の示すとおり柔らかくなっており、茶褐色に変色しています。
肉眼では見落としてしまいがちな軟化象牙質を、拡大鏡や顕 微鏡を使って取り残しの無いよう、きちんと取り除きます。その後、歯と同じ固さのレジンという樹脂で失われた部分を修復します。
欠損部分が大きい場合や、歯の間の虫歯の場合には型を取って金属やセラミックなどで修復することになります。その場合は、歯が出来上がるまでの間は仮歯という仮の詰め物やかぶせ物を作りそれで様子をみていきます。
大きな虫歯の場合、虫歯が歯髄まで広がっていなくても象牙質の管を通じて細菌が侵入していることがあります。そのような場合は、治療によって神経が一時的に過敏になり、治療後に歯がしみるのが続いたり痛みが出たりすることがあります。
多くの場合は数日から数週間で落ち着きますが、細菌によって受けていたダメージが強かった場合は、症状がひどくなったり熱い物がしみるようになります。そのような場合は神経の治療が必要になります。そのようなことがないかどうか経過を見るため、大きな虫歯の場合は仮歯でしばらくの間様子をみていきます。
私の診療所では、半年から1年に1度はレントゲンを撮って虫歯の有無を調べています。とくに臼歯部においては、歯の間の虫歯はかなり大きくならないと 発見することが出来ません。
近年、虫歯を診断するダイアグノデントという機械が開発されましたが、これも検査のやり方によって数値にばらつきが出るので確実な診断方法ではありません。
現在のところ、一番信頼性があるのが、ダイアグノデントによる診査に加え、咬翼法(バイトウイング)と呼ばれる方法で撮影されたレントゲンとマイクロスコープを用いて視診によりチェックする方法になります。
口腔内写真では問題がなさそうに見えますが、レントゲンを撮ったところ歯の間に虫歯があることがわかりました。エナメル質を削ってみたところ、大きな虫歯の穴が出てきました。このように歯の間には気づかないうちに虫歯ができてくることがあります。このような虫歯を予防するには日々のデンタルフロスが大変重要です。また、フロスは虫歯で穴ができると引っかかるようになるので、より早く異常を見つけることができます。
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