この記事の著者・監修者
院長:戸梶 仁聡(とかじ ひろあき)
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
資格・所属学会
- 日本矯正歯科学会認定医
- 歯学博士
- 上智大学カウンセリング研究所認定カウンセラー
- NCC認定カウンセラー
- 日本矯正歯科学会
- 日本歯周病学会
- アメリカ歯周病学会
Photo by ミントBlue
私の好きなテレビ番組に「プロジェクトX」という番組がありました。その番組のプロデューサーであった今井彰氏は講演会で「日本社会、日本の企業に蔓延した悪しきものが成果主義です。成果主義の中では早く成果、つまり結果を出すことが求められそのために短期間で何でもいいから利益を生まなくてはいけないと企業も社会も焦り始めることになりました。そのために社会の人々は、自分がいったい何のために生まれて、何のために働いているのかという自身の生きるテーマを見失っています。」と述べています。プロジェクトXに登場する人たちは、みなプロジェクト○○という困難なテーマをもち、幾度とない挫折を繰り返し、それでもあきらめずに挑戦し続けていきます。それが日本人本来の姿だったのではないのだろうかというのがプロジェクトXという番組にこめられた今井氏のメッセージです。
私はEBM本来の考え方を学ぶことではじめて、文献の結論だけを見て物事を判断することの危うさを知りました。EBMの勉強を通じて、私は「本当に大切なことは結論を知ることではなくて、その結論に至るまでの過程にある」ことを教えてもらったように思います。
プロジェクトXを見て私が毎回感動するのは、すばらしい成果を出したからではありません。そこへ至るその人の生き様に感動するのです。その人の物語に感動するのです。人はいろいろな物語の中で、喜んだり苦しんだり、あるいは絶望したり感動したりしながらその人の生き様(物語)を変化させていきます。NBMの実践とは患者が作ってきた物語を、そこに医療者が関わることでより良い新たな物語へと作り変えていく過程そのものです。つまりNBMも出てきた結果ではなく、そこへ至る過程そのものを大切にするのです。
科学と技術は人間があみだした問題解決のためのひとつの手段です。医師は病を治す手段としてそれを用いているだけに過ぎません。私たち医療者は「科学と技術が人間の問題を解決するのではなく、人間の問題を解決するのは人間自身である。」ということを忘れてはいけません。
あなたは美術館で1枚の人物画を見ているとします。ただその絵を眺めているのと、その絵に描かれている人物やその絵の作者がどういう人でどんな時代に生き、どんな人生を送ったのかを知って見るのとでは受ける印象がかなり変わってくるのではないでしょうか?
同様に、テレビ東京の長寿番組にお宝何でも鑑定団という番組がありますが、島田紳介と石坂浩二のトークもさることながら、鑑定されるお宝にまつわる解説を聞くと一見何の変哲もないガラクタのような鑑定品であっても、その価値を何倍にも感じさせ評価価格に期待を持たせてくれるのが面白くて、つい見てしまいます。
このように物であっても、それにまつわる物語を聞くことは私たちに親近感を感じさせ、それまでとは違った印象や見方を与えることになります。
医療現場におけるナラティブは、医療者と患者との距離を縮め治療や病の治癒に対してきわめて大きな影響力をもちます。それは従来の近代医学の科学的方法によっては到達しえない結果をもたらすことになるのです。
私はカウンセリングの勉強を通じて、物語の力の偉大さを目の当たりにしました。クライアントが自己の物語を語ることで、人格的に成長して行く過程をともに体験することは私の心を激しく揺さぶりました。相手の話を聴くということは、相手の世界の中で自分もともに生きることですので当然そうなるのです。そうして人が苦悩から立ち直っていく過程に私は深い感動をおぼえました。これを私の歯科医療にも取り入れたい。そんな思いが今回の連載「歯科臨床におけるナラティブ・ベイスド・メディスンの実践」を書くきっかけになりました。
先日その別刷りがようやく出来上がり、さっそくお世話になった方々にお送りさせていただきました。
そのきっかけを与えてくださった先生のお一人に日野原重明先生がいらっしゃいました。
先生の講義を上智にいっている時に2回ほどお話をうかがう機会がありましたが、その時先生は学問とテクノロジーをどのように患者さんに応用していくのか、どういう表現でどのようなタイミングで伝えていくのか、そういったお話をされました。
ちょうどカウンセリングを学んでいた時だけにそれが非常に心に残りました。
昨日、予期せぬことに先生からお葉書をいただきました。
お忙しい先生だから、見ず知らずの私の論文などとても読んでいただけるとは思っていませんでしたが、ご返事までいただきさすがに立派な先生は違うなと心から尊敬いたしました。
(前略 御高著NBMの歯科への適用を興味深く読みました。御礼迄 11月10日 日野原 重明)
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
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