この記事の著者・監修者
院長:戸梶 仁聡(とかじ ひろあき)
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
資格・所属学会
- 日本矯正歯科学会認定医
- 歯学博士
- 上智大学カウンセリング研究所認定カウンセラー
- NCC認定カウンセラー
- 日本矯正歯科学会
- 日本歯周病学会
- アメリカ歯周病学会
ある方から次のようなメール相談を受けました。
「13歳の息子の左下奥歯についての相談です。今年2月より左下第6歯の歯茎が腫れ、痛みがあります。その都度かかりつけの歯科医より抗生剤と痛み止めが処方され、2・3日でおさまりますがその間は食事がおもうように出来ません。頬が腫れ顔の形が変わります。今回で3回目です。原因は、第7歯が斜めに出てきていて、第6歯に当たり出られず押しているとのこと。(レントゲン写真は確かに斜めでした)そこで第6歯の神経治療後、1/3程度削り第7歯が出たところでかぶせるとの治療法の説明を受けましたが、このまま放置しておいて上に出るかもしれないと医師は削りましょうと断言しません。それを決断するのは患者であると。そのためどうしたものかと悩んでいます。」
最近の子供さんたちは歯が大きくなる傾向があり、スペースが足りなくなり歯並びが悪くなる原因になっています。よく親知らずが斜めにはえて歯ぐきが腫れることがありますが、現代の子供たちは親知らずではなく第2大臼歯(12歳臼歯、7番)が斜めにはえてしまうのです。このような状態は虫歯や歯ぐきの化膿を引き起こすだけでなく、かみ合わせにも悪い影響を及ぼします。
私は7番が引っかかっているからといって、第1大臼歯(6歳臼歯、6番)の神経をとったり削ったりするのは反対です。そうしても斜めにはえている7番がきちんとはえる可能性はほとんど無いと思います。私はそのような患者さんには矯正治療を勧めます。かなり斜めの歯でもちゃんと整直して、かみ合せを改善させることが出来ます。一つ私のやった治療例を提示します。
左下の7番
右下の7番
患者様のご状況
主訴 | 下の奥歯が斜めに生えてきた |
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診断 | 下顎両側7番近心傾斜 |
年齢・性別 | 12歳・男性 |
抜歯部位 | なし |
治療計画 | 舌側弧線装置とマルチブラケット装置にて7番のアップライト |
治療期間 | 約6ヶ月 |
治療費 | 約30万円 |
リスク | カリエス、歯根吸収のリスク |
矯正治療開始直後
かなり起きてきた7番
奥歯がぐらぐらして物がかめないためご来院されました。写真ではわかりづらいのですが、模型でみてみると、上顎の歯列は左右側方に広がり下顎の歯と咬合していません。唯一咬合高径を維持している左の6、7番は咬合性外傷によると思われる骨の破壊がおこり、動揺を来してかめなくなっていました。
初診時口腔内(1996.08.12)
患者様のご状況
主訴 | 奥歯がぐらぐらして物がかめない |
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診断 | 成人性歯周炎、咬合性外傷、右上1番根尖性歯周炎 |
年齢・性別 | 58歳・女性 |
抜歯部位 | 下顎両側8番、上下左右7番 |
治療経過 | 歯周初期治療(SRP)、根管治療、急速拡大装置逆回転による矯正治療>再評価>補綴治療 |
治療期間 | 約2年 |
治療費 | 約100万円 |
リスク | 根面カリエス、歯根破折のリスク |
上下顎の両側7番には、咬合性外傷によると思われる骨の吸収が認められます。
右上の1、2番間には咬合高径が失われたためにおきた前歯部の突き上げによると考えられる空隙が認められます。右上1番には根尖病巣も認められます。
ポケット3mm以下は記入していません。第2大臼歯部には6mmをこえる歯周ポケットが多数あり、分岐部病変も認められ、1~3度の動揺を示しています。
*印はBOP(プロービング時の出血)を示す。
第2大臼歯を抜歯してしまうと、咬合部位が無くなってしまいます。補綴治療により咬合関係を改善することは困難であると考えられたため、下顎の知歯の抜歯とスケーリングによる感染のコントロールのみを行って矯正治療にて臼歯部の咬合関係を確立することにしました。
咬合回復のための矯正治療として、上顎に急速拡大装置を逆に用いて急速縮小装置として使用しました。良好な咬合関係を確立するために必要な縮小量を計算し、あらかじめその分を拡大した状態で装置を制作しました。ネジを1回90度回転させると0.2mm縮小します。これを1日2回朝と晩に行っていただきました。
矯正開始時の口腔内写真(1997.01.16)
臼歯部の咬合関係が得られました。咬合高径の確率により、右上1、2番の空隙も自然に閉じました。
矯正終了時の口腔内写真(1997.04.04)
第2大臼歯には依然として深いポケットが残っています。矯正治療により咬合関係が改善されたため、この時点で7番を抜歯することにしました。
矯正治療および歯周治療終了時の口腔内写真(1997.07.31)
7番抜歯後のレントゲン写真(1997.08.28)
右下6番の遠心に深い歯周ポケットが残っていますが、7番を抜いてまだ間もないためであり今後は改善していく物と考えられます。出血がまだ数カ所認められるためプラークコントロールの強化を行います。これで歯周治療を終了し、いよいよ最終補綴にはいります。
補綴終了時口腔内
(1998.05.20)
補綴終了時レントゲン写真
(1998.06.06)
矯正治療により改善された
臼歯部の咬合関係の変化
治療終了時からまもなく10年が経過しようとしているますが、その間3ヶ月に1度の定期的なメンテナンスを行い、現在まで咬合関係は良好な状態を保っており歯周病の再発もなく全ての残存歯は保存されています。
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
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