この記事の著者・監修者
院長:戸梶 仁聡(とかじ ひろあき)
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
資格・所属学会
- 日本矯正歯科学会認定医
- 歯学博士
- 上智大学カウンセリング研究所認定カウンセラー
- NCC認定カウンセラー
- 日本矯正歯科学会
- 日本歯周病学会
- アメリカ歯周病学会
上記レントゲンの右下8番の状態
非常にまれですが、親知らずまできれいに生えそろっている患者さんがいらっしゃいます。そのような場合は親知らずを抜く必要はありません。
しかしながら、親知らずは一番最後に生えてくる永久歯なので、生えるスペースが足りなくなってしまうことがよく起こります。
そのため、特に下の親知らずはまっすぐ生えることが出来ず、しばしば横を向いた状態で生えてきて第2大臼歯の後ろ側に引っかかってしまいます。これを水平埋伏智歯と言います。
このような場合、親知らずの周囲には歯周病と同様な深いポケットが出来るため、炎症を起こしやすくなります。(智歯周囲炎)
さらには、不潔になりやすいため、第2大臼歯とぶつかっているところが虫歯になってしまうことがよくあります。
この40代の男性は右下の親知らずを抜歯して、虫歯が出来ていた第2大臼歯を治療しました。
しかしながら、親知らずによっておきた虫歯は歯ぐきのかなり深い部分まで及んでいたため、出血などにより十分に感染部分の除去と完全な充填処置が出来ませんでした。
その他、曲がって生えた親知らずは歯並びにも様々な影響を及ぼします。
親知らずが奥歯を押すことによって前歯の歯並びが悪くなったり、第2大臼歯が曲がって生えてきたりします。
このように清掃が困難で歯ぐきの炎症をおこしやすかったり、他の歯に悪い影響を及ぼしそうな親知らずは、早期に抜歯されることをお勧めいたします。
下の親知らずが横向きに生えてきて、第2大臼歯にぶつかってしまうことがよくあります。
そのような場合は、そのままだと親知らずを抜くことが出来ないので、分割抜歯という方法をとります。
クインテッセンス出版 「智歯の抜歯ナビゲーション」より
よく親知らずを抜くとすごく腫れるとか、痛むとかいうのは、通常このような歯を抜歯した場合に起こります。また、このような智歯の根尖付近には下顎神経管といって下顎の歯や歯ぐき、舌に分布する神経が走る通り道があるため、抜歯時の外力によって神経が圧迫や障害を受けると、一時的な痺れや麻痺が生じることがあるので、術前の診査が重要です。
腫れと痛みは術後3-7日がピークで、徐々に落ち着いていきますが、その間、物が飲み込みにくい、口が開けづらい、顔に出血斑が出ることがあります。抜歯当日は安静にして、患部を冷やし、入浴や飲酒は控えてください。通常問題がなければ、2-3週間ほどで落ち着きます。
現在のようにインプラント治療が主流になる以前には、虫歯や歯根破折などで保存が不可能になった歯を抜歯したところや、歯の無い部分の顎の骨に穴を開けて、親知らずなどの将来抜歯予定の歯を移植して歯を作る方法が行われてきました。北欧では外傷などによって破折・脱臼した前歯の代わりに、矯正治療で抜歯予定の小臼歯を移植する方法がとられてきました。
これは主に若年者の根がまだ未完成の歯に対して行われてきた方法ですが、成功率は下がるものの、根が完成している成人の智歯を用いての移植手術が試みられてきましたが、生着せず後日脱落することもあります。予後を考慮するならば、インプラントが第一選択になりますが、私の医院でもインプラント導入前に数例行ってきました。
40代の男性は右下の親知らずを抜歯して、虫歯ができていた第2大臼歯を治療しました。しかしながら、親知らずによっておきた虫歯が歯ぐきのかなり深い部分まで及んでいたため十分に感染部分を除去できず、4年後には根尖部まで周囲の骨が吸収してしまいました。(下2枚目レントゲン)
残念ながら第2大臼歯も保存不可能と判断し、抜歯することになり、抜いたところには反対側の右下の親知らず(下1枚目レントゲン)を移植しました。抜歯した第2大臼歯の根面には吸収が認められました。(下2枚目写真)
抜歯した親知らずの神経は死んでしまうので、右下第2大臼歯の抜歯に先立って、左下智歯の根管治療を行いました。移植の際に重要なことは、移植歯の歯根膜を傷つけないことにあります。歯根膜が死んでしまうと、移植歯は異物と見なされ骨とくっつきません。根が吸収して脱落してしまうこともあります。そのため、できる限り歯根膜を傷つけないように時間をかけて注意深く智歯を脱臼させます。乾燥も歯根膜の細胞にダメージを与えますので、第2大臼歯の抜歯後速やかに智歯を移植を行います。
下2枚目は移植後2週間目に歯冠形成したときのレントゲン写真です。
仮歯にてしばらく経過を見て、最終補綴物を装着しました。
下は6年後のメンテナンス時のレントゲン写真です。
疼痛などの違和感はありませんが、周囲の骨が吸収し、移植歯は異物と見なされ動揺しています。
このケースでは残念ながら、移植歯は生着しませんでした。このように歯牙移植は数年しか機能しない場合があります。このため、保険では根未完成歯しか移植は認められておらず、今回のケースは自費診療となり、移植手術、根管治療、補綴治療全てで約15万円ほどかかります。
初診時平成14年、40代女性。左下7番のむし歯を主訴として来院されました。7番は歯の崩壊が深部に及んでおり、保存不可能なため、上記のリスクに同意の上で挺出している左上智歯の移植を行うことになりました。右下は根管治療終了時の智歯のレントゲン写真になります。
下は移植終了時と補綴終了時のレントゲン写真です。智歯は抜歯窩に適合するよう90度捻転させて移植しています。
4年後のメンテナンス時のレントゲン写真です。
周囲の骨の吸収や歯牙の動揺は認められず、移植歯の経過は良好ですが、6番の近心根に歯根破折が生じています。
智歯を移植していたことで、6番が抜歯になっても今後ブリッジで対応ができると思われます。
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
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