この記事の著者・監修者
院長:戸梶 仁聡(とかじ ひろあき)
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
資格・所属学会
- 日本矯正歯科学会認定医
- 歯学博士
- 上智大学カウンセリング研究所認定カウンセラー
- NCC認定カウンセラー
- 日本矯正歯科学会
- 日本歯周病学会
- アメリカ歯周病学会
右下奥歯の歯ぐきが腫れて痛む
と月前に親知らずの部分の歯ぐきが上の歯に当たるくらい腫れたので、当たる部分を電気メスで切除し、その後も腫れが引かないため、別の医院で診てもらったら、炎症が親知らずから7番の根尖に広がっているので抜いた方がいいと言われ、口腔外科を紹介されました。6番も根尖病変があり、根管治療を開始しましたが、根管が見つからないため今回一緒に抜いた方がいいと言われました。口腔外科の先生にも抜いた方がいいと言われたましたが、本当に抜く必要があるのか知りたくて来院されました。
患者様のご状況
主訴 | 歯ぐきが腫れて痛むが、抜歯が必要か知りたい |
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経過 | 右下7番根尖性歯周炎、6番根尖性歯周炎と穿孔、右下8番智歯周囲炎 |
年齢・性別 | 36歳・男性 |
抜歯部位 | 右下8番 |
治療経過 | 歯周初期治療、根管治療>再評価>補綴治療 |
治療期間 | 約3ヶ月 |
治療費 | 約8万円 |
リスク | 根面カリエス、歯根破折のリスク |
右下6は根管治療中で、7番には動揺、歯肉の腫脹と圧痛が認められました。
初診時の右下のレントゲン写真
6番は誤った方向に根管が掘り進められ、パーフォレーション(穿孔)を起こしており(矢印)、7番の遠心根根尖から8番にかけてレントゲン透過像(炎症による骨の破壊)が認められました。
8番の炎症が火種となって7番の根尖病巣に影響している可能性があるため、8番だけ抜歯してもらうよう、口腔外科の先生にお願いしました。
抜歯後、かなり腫れと痛みは軽減しましたが、7番の違和感が残ったためラバーダム下での根管治療を行いました。6番も隔壁を作り、ラバーダム下で消毒を行った後に穿孔部をMTA(ProRoot)およびレジンにて閉鎖しました。その後顕微鏡を用いて閉鎖根管を探し、時間をかけて違和感がとれるまで根管形成拡大を行いました。根管治療に要した回数は7番は3回、6番は8回でした。
根充後のレントゲン写真
根尖のレントゲン透過像は縮小傾向にあり、7番の動揺も無くなっています。
右下奥歯の歯ぐきが腫れている
前医で根管治療を受けたが歯肉の腫れが治まらず、抜歯した方がいいと言われました。内側の歯ぐきが腫れて膨らんでいます。前医では近心頬側根管付近に穿孔が認められたため、レジンセメントで封鎖されましたが、炎症は治まりませんでした。CTを撮影したところ、かなり大きな骨透過像となっていたため抜歯を勧められましたが、残すことが出来ないかと思い来院しました。
患者様のご状況
主訴 | 歯ぐきが腫れて痛むが、抜歯が必要か知りたい |
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経過 | 右下6番根尖性歯周炎、分岐部穿孔 |
年齢・性別 | 35歳・女性 |
抜歯部位 | なし |
治療計画 | 歯周初期治療、根管治療>再評価>補綴治療 |
治療期間 | 約2ヶ月 |
治療費 | 約4万円 |
リスク | 根面カリエス、歯根破折のリスク |
6番の舌側歯肉は腫脹しており、ろう孔(膿の出口)が形成されていました。
根分岐部から遠心根尖部にかけてレントゲン透過像が認められました。
残根状態のため今までの根管治療ではラバーダムを使用しておらず、感染の除去が不完全であった可能性があり、歯冠部隔壁を作った後、ラバーダム下で根管治療を行いました。
穿孔部のレジンセメントを除去したところ、かなりの量の排膿が認められました。
水酸化カルシウムを貼薬し無菌化を計った後、病巣内にビタペックスを注入し、その後根充材を除去して、再度根管清掃を行いました。
歯ぐきの腫脹や違和感は無くなり、骨の透過像は縮小してきています。根管治療に要した回数は5回でした。
このように隔壁とラバーダムにより根管治療時の感染のコントロールをしっかりと行い、顕微鏡で詳細に状態を観察することで、良くなるケースがかなりあります。非常に根気と手間のかかる作業ですが、治療成績はかなり向上します。
以上の2症例はいずれも穿孔を伴うケースでしたが、穿孔部が今後の予後にどのような影響を与えるのかは未知数です。穿孔部に及ぶポケットが形成され、そこから再感染が起こることも十分考えられるし、穿孔部から破折が起こる可能性もあります。それでも何年か歯を延命できるのであれば、根管治療の価値はあるのではないでしょうか?最後にもっとも予後が良いと考えられるケースをご紹介します。できるだけ根尖周囲への感染が少ない早い段階で根管治療をした方が、治癒も良いし、予後も安定しているように思えます。
左下奥歯の歯ぐきが腫れている
半年前から左下奥歯の歯ぐきが腫れるようになりました。昔、矯正治療をしてその後虫歯を治療し、もう10年以上たっていると思います。
患者様のご状況
主訴 | 歯ぐきが腫れて痛む |
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診断 | 左下6番根尖性歯周炎 |
年齢・性別 | 41歳・女性 |
抜歯部位 | なし |
治療経過 | 根管治療>補綴治療 |
治療期間 | 約1ヶ月 |
治療費 | 約4万円 |
リスク | 根面カリエス、歯根破折のリスク |
虫歯などは認められず、何らかの原因で歯髄が壊死して、根尖病変が出来たと思われます。
根分岐部から遠心根にかけて大きな骨透過像が認められます。
感染が原因ではないので、ラバーダム下で感染させないように根管治療を行いました。
歯肉の腫脹や違和感は無くなっています。
透過像はほとんど消失し、骨が再生されています。今回治療に要した回数は3回。
感染が無い病巣はここまで劇的に治癒します。感染でこじれてしまうとここまできれいには治りません。
左下奥歯の歯の痛みがとれない
左下奥歯の根管治療を1年半にわたり2件の歯科医院で受けたが、痛みがとれず、インターネット検索で2014年8月27日に当院に来院された。いずれの前医でもラバーダムは使用しておらず、根管充填するとその夜から痛みが強くなり、根管開放で様子を見るということを繰り返しており、レーザー治療も試してみたが効果なく、もう抜歯しかないと言われたとのこと。
患者様のご状況
主訴 | 歯ぐきが腫れて痛む |
---|---|
診断 | 左下6番根尖性歯周炎 |
年齢・性別 | 41歳・女性 |
抜歯部位 | なし |
治療経過 | 根管治療>補綴治療 |
治療期間 | 約1ヶ月 |
治療費 | 約4万円 |
リスク | 根面カリエス、歯根破折のリスク |
左下6番は欠損で以前は567のブリッジが装着されていたが、
根管治療のため5番のクラウンは除去されており、
根管が解放された残根状態になっている。
左下5番は根管が大きく拡大されており、根尖部に透過像(病巣)が認められる。
上部は大きく拡大されていて、歯根破折が危惧される
顕微鏡で破折線は確認できなかったことと、出来る限り歯を保存したいとの希望から、歯冠を修復して、ラバーダムによる根管治療を開始した。根尖孔は大きく破壊されており、それにより根尖病巣が生じているものと考えられた。根尖から炎症性の浸出液が認められたため、初回は根管内を洗浄し、水酸化カルシウムを貼薬した。2週間後の9月8日にビタペックスにて仮根充を行い、経過観察としました。
ラバーダムによる感染のコントロールを行っているにもかかわらず、痛みが軽減しないことから、別の原因が考えられました。痛みがひどくなると、上下逆の歯がよく痛く感じられることがよくあるので、その視点から見てみると、上顎の5番にも虫歯と根尖病変が認められ、失活していたので、こちらが痛みの原因である可能性があると考え、9月12日に根管治療を開始しました。
歯肉の腫脹や違和感は無くなっています。
しかしながら、左下の痛みはやはり続いているとのことで、抗生剤を投与したが、あまり変化ないため、感染による炎症の痛みとは考えにくいと思われました。顎関節や筋肉にも特に問題はなさそうなので、可能性は低いが、非定型性歯痛の可能性を疑ったため、患者さんにペインクリニックの受診を勧めました。
10月27日に左下5番は再度根管治療を行い、根尖部からの浸出液が止まっていることが確認できたので、破壊されている根尖孔を根管穿孔時に用いられる修復材のMTA(ProRoot)にて閉鎖しブリッジの仮歯をセットしました。12月に撮影したレントゲン写真では根尖部の病巣は消失しており、レントゲン的には問題は認められません。全顎的に歯肉の炎症と歯石の沈着がみられるため、ブラッシング指導ならびにスケーリングを行いながら、ペインクリニックの受診結果を待つことにしました。
2月中旬からペインクリニックにてサインバルタカプセル20mgの処方を受けたところ、約1ヶ月ほどで痛みは7割ほど軽減しました。以前より非定型性歯痛には三環系抗うつ剤が効くことが知られていたが、サインバルタカプセルはその抗うつ剤の第4世代のSNRIに分類される。残念ながら歯科医師はこの薬を処方することが出来ないため、現時点ではペインクリニックに行っていただくしか、方法がありません。
4月にはいると、ほとんど痛みを感じることはなくなたので、5番にファイバーコアポストを装着し、最終印象を採得、補綴物を装着した。
このケースは稀ではあるが、痛みの原因は非定型性歯痛によるものであったと考えられます。
人間の脳は一度に処理できる情報量に限りがあるため、脳は通常多くの感覚情報を無視しています。これを行っているのが、下行性疼通制御系です。痛覚情報を脊髄レベルで調整して中枢神経に伝達されないようにしています。
慢性疼痛では痛覚過敏になって、この下行性疼痛制御系がうまく機能しなくなります。抗うつ薬は脳内のノルアドレナリンやセロトニンを増加させることで下行性疼痛制御系を賦活化させ、鎮痛作用を発揮させると考えられています。
2021年6月15日の検診時のレントゲン写真
治療終了時から6年経過しており、左上下5番の根尖病変は完全に消失している。
ここ数年は、痛みを感じることは全くなく、ペインクリニックのお世話になることはなくなっている。
痛かった時は一刻も早く抜いて欲しかったが、痛みの原因が歯でないことがあるのですね。今こうして歯が残ったのであの時抜かなくてよかったと思っています。と話してくれた。
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
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