この記事の著者・監修者
院長:戸梶 仁聡(とかじ ひろあき)
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
資格・所属学会
- 日本矯正歯科学会認定医
- 歯学博士
- 上智大学カウンセリング研究所認定カウンセラー
- NCC認定カウンセラー
- 日本矯正歯科学会
- 日本歯周病学会
- アメリカ歯周病学会
左下奥歯の歯ぐきが腫れている
半年前から左下奥歯の歯ぐきが腫れるようになりました。昔、矯正治療をしてその後虫歯を治療し、もう10年以上たっていると思います。
患者様のご状況
主訴 | 歯ぐきが腫れて痛む |
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経過 | 左下6番根尖性歯周炎 |
年齢・性別 | 41歳・女性 |
抜歯部位 | なし |
治療経過 | 根管治療>補綴治療 |
治療期間 | 約1ヶ月 |
治療費 | 約4万円 |
リスク | 根面カリエス、歯根破折のリスク |
虫歯などは認められず、何らかの原因で歯髄が壊死して、根尖病変が出来たと思われます。
根分岐部から遠心根にかけて大きな骨透過像が認められます。
感染が原因ではないので、ラバーダム下で感染させないように根管治療を行いました。
歯肉の腫脹や違和感は無くなっています。
透過像はほとんど消失し、骨が再生されています。今回治療に要した回数は3回。
感染が無い病巣はここまで劇的に治癒します。感染でこじれてしまうとここまできれいには治りません。
左下奥歯の歯の痛みがとれない
左下奥歯の根管治療を1年半にわたり2件の歯科医院で受けたが、痛みがとれず、インターネット検索で2014年8月27日に当院に来院された。いずれの前医でもラバーダムは使用しておらず、根管充填するとその夜から痛みが強くなり、根管開放で様子を見るということを繰り返しており、レーザー治療も試してみたが効果なく、もう抜歯しかないと言われたとのこと。
患者様のご状況
主訴 | 左下奥歯の根の治療をしているが、痛みがとれない |
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経過 | 左上下5番根尖性歯周炎、非定型性歯痛 |
年齢・性別 | 54歳・女性 |
抜歯部位 | なし |
治療経過 | 根管治療>ペインクリニック紹介>補綴治療 |
治療期間 | 約9ヶ月 |
治療費 | 約6万円 |
リスク | 根面カリエス、歯根破折のリスク |
左下6番は欠損で以前は567のブリッジが装着されていたが、
根管治療のため5番のクラウンは除去されており、
根管が解放された残根状態になっている。
左下5番は根管が大きく拡大されており、根尖部に透過像(病巣)が認められる。
上部は大きく拡大されていて、歯根破折が危惧される
顕微鏡で破折線は確認できなかったことと、出来る限り歯を保存したいとの希望から、歯冠を修復して、ラバーダムによる根管治療を開始した。根尖孔は大きく破壊されており、それにより根尖病巣が生じているものと考えられた。根尖から炎症性の浸出液が認められたため、初回は根管内を洗浄し、水酸化カルシウムを貼薬した。2週間後の9月8日にビタペックスにて仮根充を行い、経過観察としました。
ラバーダムによる感染のコントロールを行っているにもかかわらず、痛みが軽減しないことから、別の原因が考えられました。痛みがひどくなると、上下逆の歯がよく痛く感じられることがよくあるので、その視点から見てみると、上顎の5番にも虫歯と根尖病変が認められ、失活していたので、こちらが痛みの原因である可能性があると考え、9月12日に根管治療を開始しました。
しかしながら、左下の痛みはやはり続いているとのことで、抗生剤を投与したが、あまり変化ないため、感染による炎症の痛みとは考えにくいと思われました。顎関節や筋肉にも特に問題はなさそうなので、可能性は低いが、非定型性歯痛の可能性を疑ったため、患者さんにペインクリニックの受診を勧めました。
10月27日に左下5番は再度根管治療を行い、根尖部からの浸出液が止まっていることが確認できたので、破壊されている根尖孔を根管穿孔時に用いられる修復材のMTA(ProRoot)にて閉鎖しブリッジの仮歯をセットしました。12月に撮影したレントゲン写真では根尖部の病巣は消失しており、レントゲン的には問題は認められません。全顎的に歯肉の炎症と歯石の沈着がみられるため、ブラッシング指導ならびにスケーリングを行いながら、ペインクリニックの受診結果を待つことにしました。
2月中旬からペインクリニックにてサインバルタカプセル20mgの処方を受けたところ、約1ヶ月ほどで痛みは7割ほど軽減しました。以前より非定型性歯痛には三環系抗うつ剤が効くことが知られていたが、サインバルタカプセルはその抗うつ剤の第4世代のSNRIに分類される。残念ながら歯科医師はこの薬を処方することが出来ないため、現時点ではペインクリニックに行っていただくしか、方法がありません。
4月にはいると、ほとんど痛みを感じることはなくなたので、5番にファイバーコアポストを装着し、最終印象を採得、補綴物を装着した。
このケースは稀ではあるが、痛みの原因は非定型性歯痛によるものであったと考えられます。
人間の脳は一度に処理できる情報量に限りがあるため、脳は通常多くの感覚情報を無視しています。これを行っているのが、下行性疼通制御系です。痛覚情報を脊髄レベルで調整して中枢神経に伝達されないようにしています。
慢性疼痛では痛覚過敏になって、この下行性疼痛制御系がうまく機能しなくなります。抗うつ薬は脳内のノルアドレナリンやセロトニンを増加させることで下行性疼痛制御系を賦活化させ、鎮痛作用を発揮させると考えられています。
2021年6月15日の検診時のレントゲン写真
治療終了時から6年経過しており、左上下5番の根尖病変は完全に消失している。
ここ数年は、痛みを感じることは全くなく、ペインクリニックのお世話になることはなくなっている。
痛かった時は一刻も早く抜いて欲しかったが、痛みの原因が歯でないことがあるのですね。今こうして歯が残ったのであの時抜かなくてよかったと思っています。と話してくれた。
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
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