この記事の著者・監修者
院長:戸梶 仁聡(とかじ ひろあき)
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
資格・所属学会
- 日本矯正歯科学会認定医
- 歯学博士
- 上智大学カウンセリング研究所認定カウンセラー
- NCC認定カウンセラー
- 日本矯正歯科学会
- 日本歯周病学会
- アメリカ歯周病学会
患者さんの話をよく聞くことの大切さを示す症例をご紹介いたします。いずれも痛みが取れないことに困って来院された患者さんです。
患者さんは51歳の男性。
2年ほど前に柚子を噛んだ時に右上の奥歯にしみるような痛みが起こり、
それ以来右上奥がしみて痛むようになったとのことです。
そして半年後、今度は左上も同じようになり、奥歯で物が噛めなくなりました。
今まで3軒の歯科医院で診てもらいましたが、いずれの歯科医院でもレントゲン、
口腔内所見ともに虫歯などの異常は無いと言われました。
しかしながら患者自身は冷たいものやすっぱいもので痛みを感じており、
奥歯で物を噛むと痛みが起こるため、どうしていいかわからず、現在まで前歯だけで食事をしてきたといいます。
初診時の口腔内写真 (平成21年12月6日)
写真をよく見ると、下の前歯の歯ぐきや内側にふくらみがあります。さわると骨のように硬いものでした。
これは歯ぐきが腫れているのではなく、強い咬合力を受けるために骨が代償性にふくらみ補強をした結果生じるものです。
相当くいしばりがあることが想像されます。
奥歯のレントゲン写真を撮影したところ、前医の言うとおり、虫歯や歯周病の問題は発見できませんでした。
しかしながら、患者の病状経過から判断するに歯髄炎の初期症状であり、咬合痛があることから歯牙の破折が原因ではないかと推測されます。
マイクロスコープによる観察で、上顎両側7番の歯冠部の中央裂溝部分にそって破折線が観察されました。
上の画像は左側の7番の写真とレントゲンです。仔細に見ないと破折線は判別できません。
右側7番は破折が軽度であったため、破折部分をレジンセメントにて接着、歯冠形成を行ない仮歯にて経過観察となりましたが、左側7番は破折が歯髄に及んでおり、抜髄処置を行いました。
これらの処置により痛みは消失し、現在は奥歯でも物が噛めるようになっています。
患者さんは51歳女性、左下の奥歯がズキズキ痛むということで来院されました。
2年前から左下奥歯(5番から6番あたり)が冷たいものがしみるようになり、
その後、徐々に熱いものもしみるようになって頭痛もするようになったため、
行きつけの歯科医院を受診しましたが「神経が無い歯なのでしみるはずがない」と言われたとのことです。
それでも痛みがひどいと言ったら、4番の神経をとる治療を行いました。
(左下7番の詰め物もそのときにはずしたと思われます)
翌日より激痛となり、他院で痛み止めをもらい服用したが、おさまらなかったとのことです。
初診時の口腔内写真
初診時のレントゲン(1)
番の打診がひどいため、同歯牙の残随炎の疑いがあり、麻酔により痛みが軽減したため、ラバーダム下で根管治療を行いました。
さらにマイクロスコープにて確認したところ、新たにもう1根管見つかったため、抜髄処置を行いました。
これによりひどい痛みは消失しましたが、しみるような痛みはまだ続いているとのことでした。
再度マイクロスコープにて口腔内をチェックしたところ、左上7番のアマルガム充填から伸びる破折線が発見されました。
破折は歯髄に達しており、抜髄処置を行った結果痛みは消失しました。
このケースに見られるように、痛みを感じるのが下の歯であっても、上が原因歯であることがしばしばあります。
おそらく左下4番の抜髄処置は必要なかったのではないでしょうか。
レントゲンや口腔内の所見だけで、一方的に診断をするのではなく、患者さんの話を仔細に聞き、よく観察することが大切です。
我々歯科医は痛み=虫歯、歯周病という頭があるため、所見でこれらの原因が認められないと、それ以上の探求を止めてしまいます。
しかし、初期の歯冠破折は所見が認められにくく、マイクロスコープによる慎重な観察によってはじめてわかることも少なくありません。
このように初期の歯冠破折は患者さんの既往歴を仔細に聞くことによってしかわからないのです。
時間はかかりますが、患者さんの話をよく聞くことで病態を正しくつかむことが出来、誤った診断をすることは防止できます。
それでも最終的判断に迷ったら麻酔をして痛みが取れるかどうかで判断を試すことが出来るので、こういったことを有効に活用して正しい診断をすることが、患者さんを苦しみから解放する早道なのです。
初診時のレントゲン(2)
歯科医師になって30数年間、自分の理想とする【患者さんのための歯医者】を求め続けてここまでやってきました。
©とかじ歯科 All Rights Reserved.